2007年8月9日木曜日

魚とメチル水銀

2002年、米国心臓協会(AHA)は心臓を保護するために少なくとも週2回、様々な種類の魚(特に脂質を多く含む魚)を摂取するように勧告を出した。魚に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)などそω3系多価不飽和脂肪酸に心血管リスクを低下させる作用があることが、疫学調査や臨床試験の結果、明らかになったからだ。
 冠動脈疾患および癌の既往のない40~59歳の日本人41578例を対象とし、1990~2001年の11年間における魚摂取量と冠動脈疾患発生率を検討した調査では、もっとも魚の摂取量が多い「週に8回もしくは180g/日の魚を食べていた」群では、もっとも摂取量が少ない「週に1回もしくは23g/日の魚を食べていた」群と比較して、冠動脈疾患の発生リスクが低下した。このリスクの低下は非致死性冠動脈疾患の発生率の低下によるもので、致死性冠動脈疾患発生率の低下は認められなかった。
 一方、2003年、厚生労働省は「水銀を含有する魚介類などの摂取に関する注意事項」で、妊婦および妊娠している可能性のある人を対象に、魚介類の栄養素が妊婦・胎児に与えるメリットと、魚介類に含まれるメチル水銀が胎児の発育に与えるリスクのバランスをとるために、メチル水銀含有量が高くなりやすいサメ、メカジキ、キンメダイ、クジラ類の一部について、摂取量上限値の目安を示した。
 メチル水銀は中枢神経細胞と親和性が高く、特に神経系が急速に発達する胎児期は感受性が高い。大規模なメチル水銀中毒として知られる水俣病では神経症状が多発した。厚生労働省の勧告では母親が2.0μg/kg体重/週以上摂取すると子供の言語、注意、記憶能力などに影響を与える可能性があることを指摘している。
 メチル水銀は、そのほとんどが魚介類を介してヒトの体内に取り込まれる。食物連鎖の過程で生物濃縮が起こり、上位に位置するサメやクジラ、マグロなどに比較的高濃度のメチル水銀が蓄積される。
 妊婦以外では、一般に日本人が食べている魚介類の量で成人がメチル水銀中毒を引き起こす可能性はほとんどなく、食べないことによるデメリットの方が大きいと考えられている。しかし、メチル水銀含有量が比較的高いカジキ、マグロ、キンメダイなどは食べ過ぎないほうが無難なようだ。

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