2007年9月8日土曜日

アンチエイジングとしての成長ホルモン

 米国ではアンチエイジングのため様々なホルモンが投与されている。なかでも成長ホルモンは、一流医学雑誌に論文が発表されて以来アンチエイジングの中心的役割を担い、1万人がアンチエイジングのために成長ホルモンの注射を受けているという。

 この論文(N Engl J Med 1990;323:1-6)によれば、高齢者に成長ホルモンを投与すると、筋肉量が増え体脂肪量が減るという。この論文はアンチエイジング産業の広告宣伝に利用されるという結果になった。その後、この医学雑誌は、「成長ホルモンは加齢を防げるのか?」という論文を掲載し、このような風潮にくぎを刺している。この中で著者は、成長ホルモンの投与は確かに筋肉量を増やすが、その機能まで高めているという根拠はないと主張し、むしろ成長ホルモンによる癌の発症を危惧している(N Engl J Med 2003;348:779-780)。その根拠として、血液中のIGF-I(成長ホルモンにより増えるホルモンであり、これが高いことは成長ホルモンが高いことを意味する)の濃度が高いほど前立腺癌の発症率が高い、という研究を紹介した。ほかにも、成長ホルモンが投与された人では、大腸癌やリンパ腫などの発症率が上昇し、癌による死亡率も高くなるとの報告もある(Lancet 2002;360:273-277)。そればかりではなく、成長ホルモン投与は糖尿病の発症率も上昇させる( JAMA 2002;288:2282-2292)。

 実験室レベルでは成長ホルモンの受容体をノックアウトした(成長ホルモンへの反応をなくした)マウスは寿命が延びることが分かっている。これをそのままヒトに当てはめることはできないだろうが、発癌の問題以外にも成長ホルモンはアンチエイジングに逆効果をもたらす可能性があるということだ。

 日本でも高額(薬代だけで一ヶ月262500円というサイトがあった)の成長ホルモン注射をアンチエイジング目的で行っているクリニックはある。成長ホルモンを成人に注射すると筋肉量が増し気力も充実するらしいので、いかにもアンチエイジングに良いと感じてしまうのだろうが、アンチエイジングに効果があるかどうかは長い年月と多数例での検討が必要である。現時点で成長ホルモンを使うのはあまりにもリスクが高い。

0 件のコメント: