2008年12月18日木曜日

アーチー・グッドウィンとリリー・ローワン

 レックス・スタウトの「ネロ・ウルフ」シリーズは謎解きの面白さよりも物語の語り口の面白さで読ませるミステリ小説である。

 ネロ・ウルフは120kgもある巨漢のニューヨークの私立探偵で蘭の栽培と美食を趣味とし、事務所兼自宅のビルからめったに外出しない。必要に応じて下請けの探偵を雇って情報を収集し、事件を解決する。

 彼の秘書兼用心棒兼探偵助手兼オフィスマネージャーであるアーチー・グッドウィンが物語の語り手である。変人のウルフよりも、明るく才気煥発のアーチーのファンの方が圧倒的に多いだろうと思う。

 そのアーチーの恋人が富豪の娘のリリー・ローワンである。アーチーとリリーが初めて出会ったのが「シーザーの埋葬」事件であり、今日この本を読み終えたところだ。以前読んだ本ではアーチーがリリーに甘えているような印象を受け、リリーの方が年上なのかと思っていたが実際は若い女性であった。
 この本の中で、牧場で牛に追われたウルフとアーチーを車の二人連れの女性が助けてくれ、その一人であるリリーがアーチーに言った最初の言葉が「いらっしゃい、エスカミリオ」だった。富豪の娘のリリーがエスカミリオを知っているのは当然かも知れないが、そのユーモアを解したアーチーも、おそらくメトロポリタン歌劇場で「カルメン」を観たことがあるのだろう。

 エスカミリオはオペラ「カルメン」の中に出てくる闘牛士である。純朴なホセを誘惑したカルメンはエスカミリオに心変わりし、ホセを捨ててしまう。ホセはストーカーになり、最後にカルメンに復縁をせまり、断られてカルメンを刺し殺してしまう。

 エスカミリオと呼びかけたリリーは奔放な女性「カルメン」ということになるのだろう。この本の中でリリーの知人の女性は彼女のことを「彼女はヴァンパイアなのよ。危険な女だわ」と言っており、リリーに捨てられた男の父親で地方の名士は「あれは色情狂だ......あの女は呪わしい淫売だ」とぼろくそに貶している。リリーは奔放ではあっても言われているような悪女ではない。リリーに言い寄られたアーチーも最初は警戒して適当にいなしていたが、徐々に彼女に惹かれていき、今後の付き合いが始まっていく。

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