2007年10月8日月曜日

幻視

「死んだ夫がときどきそこに座っているんですよ」とその高齢の女性は言った。私が座っている居間に出現するらしい。
「何か、しゃべるんですか」
「いいえ、話しかけても返事はありません。しょうがないからそのままほおっておきます。そうするといつの間にか消えています。めんどくさいことに、夫だけでなく生きている大阪の親戚も出てきて、やはり何もしゃべらず、気がつくと消えています」
 その女性は、自分が見たものが現実にはそこに存在しないはずのものだとしっかり認識している。そのことに対する恐れは持っていないようだった。
 幻視だろう。この時点ではこの人は歳相応の物忘れはあるが、呆けているようにはみえなかった(まあ、見えないはずのものが見えるということに対する恐れがないということは呆けなのかもしれないが)。幻視が認知症の症状として最初に出てきたのだろう。この女性は数年後には完璧な認知症となった。
 見えるということは脳の視覚皮質の処理によるものであり、実際にないものも見えることがあり、実際にあるのに見えないこともある。

0 件のコメント: