2007年11月16日金曜日

十字架もない私の墓に三本のゆり

 これは今日聴いた井上道義指揮のショスタコーヴィチ14番の第4楽章の中の一節の日本語訳である。
 プログラムは9番と14番、ショスタコの中では人気がない部類に入る曲だが、9割もの客の入りで井上道義さんが驚いていた。以前このホールで本場ロシアのドミトリエフ指揮で、もっと人気のあるショスタコの11番が演奏されたが客はもっと少なかった。これは私のように、井上道義さんの指揮だから聴きに来たという人がけっこういるのだろう。
 それぞれの曲の前に井上さんの解説があった。井上さんは一見ダンディな感じだが、トークは気取りがなく、ユーモアがありとても良かった。井上さんのトークで初めて知ったのだが、ショスタコの9番はユダヤ人のための曲だという説が最近出ているらしい。最終楽章ではユダヤの古い踊りが引用されているということだ。
 この9番という交響曲はソ連当局からベートーヴェンの第九に匹敵する大曲を期待されていたのに、わざとこじんまりとした軽い感じの曲にしたため、当局の不興を買ったというのは有名な話である。もしこれがユダヤ人のための曲だということが露見していたら、ショスタコーヴィチは反ユダヤ主義のスターリンによって粛清されていただろう。こういうことをするのがショスタコーヴィチという人なのだ。
 今日のメインは14番、日本ではめったに演奏されることがない。それはこの曲が交響曲ということになっているが、実際はバスとソプラノによる声楽曲であり、ロシア語による歌を充分に歌いきる歌手がほとんどいないという理由による。今日は井上さんが選んだロシア人歌手が見事な歌を聴かせてくれた。この曲は日本では「死者の歌」という副題で呼ばれるように(そういう副題を付けるのは日本だけらしいが)、暗い歌である。演奏中ホールの照明を落とさず、日本語訳を読みながら聴けるように配慮がされていた。まあ、かなりハードな曲ではある。癒しには決してならない。もっともショスタコで癒しになるような曲はないか。
 古い知人の森岡夫妻に会場で声をかけられた。こういう趣味があるとは知らなかったなあ。

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